第二の人生を桃に捧げた男の話
60歳で公務員から農家へ
バイタリティー溢れる農園長

桃源郷のような観光農園

五戸町の高台にある『ももや観光農園』。

とても見晴らしが良く、一日中眺めていても飽きないくらいの爽快感と、景色の美しさがあるとても素晴らしい場所であった。

私は、きれいに整備された農園を眺めながら竹洞さんを待っていると、

沢山実がなっている桃の木のアーケードを農園長は穏やかな顔をしながら、歩いてきた。

『暑い中、どうもご苦労さんです』

竹洞兼雄さんは71歳。

月並みな言葉ではあるが、とてもそんな年齢を感じない、言葉の力強さと、知的な雰囲気があった。

竹洞さんは、このももや観光農園を運営し、今も毎日、桃と格闘している。

竹洞さんとの挨拶を交わすと、ちょっと待って、と促され、
桃狩りに訪れたお客さんに声を掛けていた。

『むつ市からわざわざどうも、好きなだけ桃を取って下さい』

竹洞さんが声を掛けたそのお客さんは、遠方から桃狩りに来てくれたお客さん。

根強い『ももや農園』ファンはシーズンになると足を運んでくれるそうだ。

ももや農園は、収穫時期の為、桃狩りのお客さんで賑わいをみせており、その賑やかな声は山々にこだましていた。

そんな中、竹洞さんが、前職公務員であったことに納得が出来るような口調で、懇切丁寧に話始めた。

前職は公務員だったよ

『前の仕事は、消防員で公務員だったから・・』

観光農園とは似つかわしくない言葉が、竹洞さんの口から出てきたのである。

竹洞さんの前職は、八戸広域の消防職員であった。

『やりがいのある仕事がしたい』

その言葉と共に、当時を振り返った。

竹洞さんは、デスクに座りながら仕事をする、そんなホワイトカラーを好まない性分だった。消防員として、救助活動を通して、人助けに関わりを持ち、人に感謝されることに生きがいを感じながら仕事をしていた。

しかし、定年間際は、デスクに向かう仕事が多くなり、その実感も薄れていったという。

『もう一度、やりがいのある仕事がしたい』

その想いが、定年後、第二の人生を送る原動力となった。

『定年したら、残りの人生15年もしくは20年、限られた時間の中で、もう一旗あげて勝負したいと思ったんだよ』

在職中から、定年後は農業をやろうと考えていたという。

当時を振り返る竹洞さんの表情は、一片の後悔など感じさせず、言葉にしてくれた。

そう話しながら、竹洞さんは感慨深く、『ももや観光農園』の一面を見渡していたのだった。

独学で学び、ゼロからのスタートだった桃農園

なぜ桃だったのか、竹洞さんは経営者的目線で、戦略的に桃を選択したのだ。

桃は苗木から3年で実を付け始める。

『桃、栗3年。柿8年。この歳から始めるなら桃だと思った。この辺りで、やっている人も少なかったからね』

3年という短期間で収穫できるという事と、地元周辺では、桃を大規模にやっている農家が少なかったという理由。戦略的な理由で桃を選んでいるあたりが、経営者の感覚を持ち合わせているのだと感じた。

今のももや観光農園は、元々、竹洞さんの父親がりんご農園をやっていたのだが、数年間もの間、放置されている状態だった。

そのりんご農園だった場所に、≒55rの桃の木を3年間かけて230本もの桃の木を植え直したのである。

『退職金を使いながら植え替えていったよ、桃を育てる為の土壌を変えるのが一番の苦労だったね、環境づくりが大事だから、木が健康に育つには、根が大事』

農業の知識、桃の知識は無くても、食物を育てる本質は見抜いていたようだ。

五戸町周辺では、桃を栽培している農家はほとんどなく、大量の本を読みあさり、他県で桃農家を探しては、ノウハウを教えてもらい、遠方まで桃農園を視察に行くなど、ゼロからのスタートとなった。

竹洞さんは笑いながら、こう話した。

『妻は、何も言わなかったよ!寛容な人だな』

まるで、当時の苦労を楽しんでいたかのようであった。

『私達からすれば、桃は行事ごとがあるときしか食べられない高価なもの。その桃を安く買ってもらい、みんなに食べてもらいたかった』

その気持ちは、竹洞さんが販売する桃の値段を見れば、一目瞭然だ。

~桃1個100円の想い~ 地元で愛される観光農園と直売所

『一個100円は、やり始めの頃から変わらないよ』

倍以上の値段で、スーパーなどに並ぶような桃が1個100円とは驚きだ。

観光農園に来るお客さんは、沢山にぶら下がっている桃の木を眺め、一生懸命吟味し、その桃を籠一杯に詰めているのである。

収穫時期が3種類あり、早生種、中生種、晩生種の3つになる。

はなよめ、日川白鳳 あかつき、まどか、川中島白桃、さくら、西王母、ネクタリン。

6月初旬から9月中旬頃までが、観光農園のシーズンである。

『口コミで広がって、近場の人達だけではなく、遠方からのお客さんも多い、外国の方も沢山来てくれる、有難いね、景色も良いからみんか必ず写真を撮っていくよ』

とても嬉しそうに話してくれた。

竹洞さんにとって、お客さんが桃を喜んで食べてくれることが、一番の喜びでもあり、
『価値ある仕事』となっているのだろう。

美味しさを追及する飽くなき探求心

『毎年試行錯誤、その年の反省をし、課題を持つ、去年の桃よりも美味しくしたい、美味しさの為に土壌環境を改良し、研究を重ねる、毎年が勝負だよ』

やはり美味しさを求める味への探求心は計り知れない。

『桃を育てている中で、一番の喜びはやっぱり収穫する時だよ、沢山の桃が色付き始め、それを一つ一つ収穫する、その年の集大成だから、毎年子供を育てているようなもんだからね!』

竹洞さんが笑いながら見つめる先には、桃狩りを楽しんでいるお客さんがいる。

竹洞さんが言う、『やりがいのある仕事』。

それは、消防署員時代、人助けをし、感謝されることに感じていた。

今は違う。

『やりがいのある仕事』とは、お客さんが桃狩りを楽しみながら、桃を食べ、美味しいと喜んでくれること。

『いつまでも人の為に尽くす事』

竹洞さんの桃を食べると、竹洞さんの熱意と優しさが口の中に広がってくるようである。

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